かざみどり巻頭文

バックナンバー雪梁舎 設立十五周年

 私は商売が好きだが、小売業は気の休まるところがない。多忙な毎日のなかでふと立ち止まってみると、雪梁舎美術館をつくってもう15年が経つ。
 新潟市内に、ホームセンターを核にショッピングセンターを計画した。そこに親鸞聖人の焼鮒の旧跡があり、大切に保存するために池をつくり、樹木を植え、お堂を建てた。そして、美術育成財団雪梁舎を設立した。これから芸術を目指す若い人たちを育てていくことであり、新潟に残された多くの先人たちの作品を後世に残すためでもある。
 そんなことから、今は全国公募のフィレンツェ賞展を行っている。毎年300点近い応募がある。初めのころは、新潟大学の名誉教授であられた故・久保尋二先生にこの企画をお話し申し上げ、大変喜んでいただいた。町田市立国際版画美術館の館長をされていた青木茂先生、京都国立近代美術館の館長をされていた内山武夫先生、横浜美術館の館長をされていた陰里鐡郎先生、愛知県立芸術大学の学長をされていた川上實先生の協力を得て進めてきた。
  フィレンツェ大賞の受賞者はイタリアのフィレンツェで100日間研修をし、元、フィレンツェ美術アカデミーのビンチェンツォ・ビアンキ教授から指導を受けている。今年で11回目になり、大勢の意欲ある若者が注目している。
 フィレンツェ賞展の上位入賞者をメンバーに「風の会」を結成し、ヨーロッパで展覧会を行った。
 そして、郷土の作家で、人間国宝の佐々木象堂や三浦小平二、伊藤赤水などの作品を集め、絵画では横山操、土田麦僊の作品を収集し、書で名高い良寛禅師の作品や書聖といわれた中林悟竹の作品も集まっている。 そして、私が好きな棟方志功も収集した。

 休日になると雪梁舎に足が向く。
 せわしい商取引の毎日から抜けて、ほっとひと息つける場所でもある。ここに大勢の人たちが集まってこられるのは、好きな絵を見ながら話し込むのが楽しいからだろう。
  私がここを雪梁舎と名付けたのは、雪国育ちで、木造の太い梁のある家で育ったからだ。そのぬくもりから母を思い、そして父のたくましい力強さも感じるのである。
 雪梁舎の屋敷の周りにはざ木を植えた。
木造の家が好きだと、詩人の故・宗左近さん、俳人の金子兜太さん、黒田杏子さん、中原道夫さん、坪内捻典さんたちが集まって、毎年俳句まつりを開くようになって、これも10年がたつ。
 今回、設立15周年を記念して、今まで書きためてきた雪梁舎の会報の巻頭文をまとめて「はざ木」として出版した。
 仕事を離れて自然に返る。そこには遠い日のふるさとの原風景がある。生かされて生きている自分の姿を見ながら、気付かされることが多い。親鸞聖人の旧跡をお守りした縁がそうさせているのだろうか。