かざみどり巻頭文

アメリカ視察

 雪梁舎美術館が設立20周年の節目を迎え、ご支援いただいている方々百名ほどをお招きして、9月14日に記念式典を行った。
 式の冒頭に20年前に作られたビデオが流れ、懐かしさとともに設立当初のことが思い起こされた。
 この黒埼の地にショッピングセンターを計画したのは、昭和から平成に年号が変わる頃であった。計画も順調に進み、法に基づき雨水処理のための池と緑地を設ける場所を定め、いよいよ図面も出来上がった。
 ところが作業が始まって間もなく土地を掘り返していくと、この地は地元の大庄屋が祖先を祀ってきた場所であることが分かり、さらにはこの黒埼、山田の地には、越後七不思議の一つ、焼鮒(やきふな)の伝説が残っていることが分かった。
 親鸞聖人がご赦免を受けられて京への帰途、信仰の厚かったこの山田の里に立ち寄られた際、村人が焼いて差し出した鮒を哀れに思われ、串を抜いて池に放されたところ生き返って泳ぎだしたという伝説の場所である。
 先人がそこでひざまずき、手を合わせて大切にされてきた清らかなところを車で踏みつけるわけにはいかず、そこに池をつくり、庭を配して美しく保存することに決めた。
 そして、その広い用地をただ庭園にしておくだけではあまりにもったいなく、若手作家の育成を目的とする美術館を設立することにした。著名美術家の作品を展示するだけではなく、若手作家の作品発表の場をつくり、そしてまた芸術文化を志す人たちが集い、切磋琢磨しながら成長することができたらどんなにすばらしいことか。
 そうして平成5年3月に「財団法人美術育成財団雪梁舎」を設立し、翌年8月に純和風の美術館を開館した。この雪梁舎美術館は、たくさんの技術や知恵を結集してつくられた建物で、広い意味で芸術作品と言えるのではないだろうか。
 私は、芸術と経営は実によく似ているものだと思う。画家がキャンバスに向かうとき、そこに何の絵を描くか、経営も同じだ。頭の中に描いたキャンバスに構想を練る。事業を成し上げるには、全体の構図に似た基本プランがいる。どのような商品を選択してどんな店をつくるかは、絵の具だろうか。どんな人材で組織を組むかは、芸術家の筆にも似ている。
 そうして出来上がった企業は、作品である。そこに経営の思想が入って、社風と風格が生まれる。芸術も経営も作る人の心情が出、魂が入らなければ、人の心を動かすことはできない。いい作品には優雅な気品が漂っている。
 そして自分の作品を磨く上で大事なことは、本物に触れ、高いレベルの人たちと常に接し合うことであろう。自分の小さな世界に閉じこもることなく高い志を持って取り組むことが、成長には必要なことだと思うのである。